大学を卒業する直前のことだったと思う

誰かのアパートに集まって酒を飲んでいる席で「人間は表現せずにはいられない存在だから」と友人が口にした。彼は就職活動をせず、アルバイトをしながら音楽活動を続けるつもりでいた人だけれども、気張った『青年の主張!』のようなものとして発したのではない。おそらく、私と彼ではない他の友人とが、具体的な曲だか小説だか創作物の話をしていた流れの中で、唐突に言ったのだった。時々、常套句に過ぎ、生真面目な顔で話すと馬鹿みたいに聞こえる言葉を、会話の筋と外れるか外れないかというタイミングで投入するという言葉遊びをする人で、上手いもんだよなあ、といつも私は関心させられていた。長年付き合った彼女と別れた際、その理由を「音楽性の違い」と言っていたのも良く覚えている。